2017.05.15 ひとつの曲、様々な風景
かなり激しい雨が続いた土曜日、池袋P’s Barでピアニスト永見行崇氏とデュオ演奏でした。
Fotografia por KANI-san
演奏に毎回テーマを作るようにしているのですが、この日は“風景が見える音楽”。
ある曲を演奏すると、自らの想い出とか経験とかではなく、ある風景や香りや光、
人物を見たり感じたりします。
そんな曲たちを集めて演奏してみました。
その中でも印象に残った曲をピックアップしてみます。
・・・全部印象深いのですが(笑)エドゥ・ロボの「Casa Forte」(要塞)。
この曲はバイアォンというブラジル北部のリズムなのですが、何故か私は北欧の風景が見えてきます。ドイツとか。(けしてパリではない)
“要塞”というタイトルからのイメージもありますが、簡素だけど屈強で実質的、
そんな家が曇天の冷たい風に吹かれてる・・という感じなのです。
ほぼスキャットで構成されてるこの曲、永見さんのソロが光りました。
ピアニストであり、パーカッショニストである彼は、こういう特殊なリズムで強烈な輝きを発します。
グルーブを牽引してくれるというか。ぐんぐん回転していく感じです。
そんな永見さんが“風景の見える曲”としてソロで演奏してくれたのは
彼のオリジナル曲「朱鷺(トキ)の時」。
ちょっと薄濁った朱鷺の羽が、夕日に美しく染まる一瞬を捉えた曲だそう。
壮大で、ほのかに日本のメロディを感じさせる曲はダイナミックで丹精。
歌詞が無い世界で、こうやって色や景色や時間を表現出来るってすごいなあ・・と。
お客様も固唾を呑んで引き込まれていました。
2ndで演奏したジョビンの「Inútil Paisagem」(無意味な風景)。
これは前回もやったのですが、永見さんのあまりにも素敵な演奏が忘れられず今回も。
私はこの曲は、空っぽを抱えた人と、美しくも霞んだ風景が浮かぶのですが・・・
“虚無”という空洞を、“音やメロディ”を使って表現するって不思議ですよね。
こういう音楽を創ったジョビン、そして、静けさを音楽をもって表現した
ジョアン・ジルベルトは偉大だなあ、とつくづく思うわけです。はあ。
そして、どうしてもやりたいバラードが2曲。(この時点でステージ時間は残りわずか)
幸いにも同じキーでジョビン、そして、どちらも“月”が見える曲。
ということで、メドレーにしてお届けした「Fotografia」と「Estrada Branca」。
終わりそうなバーで、満月を見ながら口づけを交わすひと。
そして月に照らされた白い道を、愛しい人のいる街へ苦しい想いで歩き続けるひと。
同じ月の下で、幸福と悲しみ、様々な人間模様があるんですよね。
同じものを見ていても、違うものを見ている。
同じ曲を聴いても、違う曲に聴こえる。
この日も沢山のお客様においでいただきました。
皆さんのそれぞれのイマジネーションで、オリジナルの風景を見ていただけてれば嬉しいです。
お足元が悪い中、お集まりいただき心より有難うございました。
次回のこのデュオは7/8(土)。
次回は何をテーマに、どんな音、どんな世界が見られるのか。創れるのかな。
たぶん、同じ曲を演奏しても、また違う風景を見ることでしょう。